2019年9月にバクーで行われた世界新体操選手権で、フェアリージャパンが団体総合金メダル、主も功別決勝のボールで金メダルを獲ったことを覚えていますか?
そもそもフェアリージャパンとは何か、それは新体操です。
40代以上の方にとっては、人気野球漫画『タッチ』に登場するヒロイン・浅倉南が競技を行っていたことで知っている方も多いでしょう。
一見優雅に見える新体操ですが、実は非常に過酷な環境下で選手たちは試合に挑み、そして今回の快挙に至りました。
東京オリンピックの正式種目でもある女子新体操、いったいどんな競技か改めて見てみませんか。
新体操の基本
新体操は13m四方のフロアマットの中で、リボンやローブ、ボール、フープなどを使用し、音楽に合わせて演技をし、芸術性を競います。
女子に求められるのは柔軟性と華麗さ、男子に求められるのは力強さです。
女子の方がよく知られていますが、男子も現在オリンピックの正式種目を目指しているところです。
新体操で使われる種具にはロープ、フープ、ボール、クラブ、リボンの6種類があります。5人で2分15秒~2分30秒演技を行う団体演技、1人で1分15秒~1分30秒演技を行う個人競技があり、個人競技は1秒経過ごとに0.05点減点されます。
他にも自由演技がありますが、こちらは競技会によって変わります。
曲を使用するのですが、クラシックもあれば映画音楽もあり、演技を見ているとフィギュアスケートのように楽しめます。ただし動物の鳴き声が入っている、銃など激しい音が入っている曲は禁止されています。
衣装もレオタードと決められているため、違いを付けるためにデザインや色、装飾に凝る選手も多いようですが、デザインではハイカット、スカート付き、足首までのワンピースなど様々です。そういう意味では女子体操より自由度は高いかもしれません。
一見素足で協議しているように見えますが、ハーフシューズやダンスシューズ、エレガンスシューズを履く選手がほとんどです。
現在はロシアのエフゲニア・カナエワ選手、ウクライナのアンナ・ベソノワ選手、アゼルバイジャンのアンナ・グルバノワ選手、カザフスタンのアリーヤ・ユスポバ選手とヨーロッパの選手層が非常に厚くなっています。
過酷なフェアリージャパン
POLAを公式スポンサーとするフェアリージャパン、毎年トライアウトによって代表が選ばれます。トライアウトはフェアリージャパン入りを目指す選手全員が参加するもので、今フェアリージャパン代表入りしているからと言って受けなくてもいい、受けても必ず受かるという物ではありません。監督らが認め、改めてフェアリージャパンに入る必要があります。
そもそもフェアリージャパンのオーディションが始まったのは、2003年に世界新体操選手権でミスによる惨敗を喫し、2004年のアテネオリンピック出場を逃すという結果からです。学閥やクラブを超えた、スタイルのいい若手の選手を選び、集中合宿によって鍛えるという手法が取り入れられました。
2008年の北京オリンピックではミスによって決勝進出を逃したものの、8位とは0.6点差、次を目指すということで2009年に三重県で行われた世界新体操選手権での上位入賞を目指しました。
結果、総合8位入賞、主も奥別決勝のリボン&ロープで4位となり、現在の形が成功に導いた結果をもたらしたのです。
さらに2013年には9期メンバーがブライダル総研開催の第1回ベストエンゲージメント2013でプロジェクト推薦部門受賞。共同生活することで、厳しい練習を仲間たちで乗り越え、世界を目指す、互いに切磋琢磨する、そして芽生える友情と絆が認められた結果でした。
さらに2017年には第52回テレビ朝日ビッグスポーツ賞・ビッツスポーツ五輪奨励賞を受賞するに至りました。
彼女たちは1年365日のうち350日を共に生活します。休みは1週間くらいのものが年に2~3度となっています。
さらに練習中も貪欲さ、表情を求められ、表情がなければ「ソルジャー」と言われ、曲を流さない練習中でも豊かな表情が求められます。もし笑顔がなければコーチが途中で帰ってしまうこともあるのです。
実際に現在主将を務める杉本早裕吏選手は、ロシア合宿に行くと午前11時にバレエレッスンをはじめ、8時間練習場で過ごします。さらに練習場に相部屋があり、そこではロシア人コーチのインナ・ビストロヴァ氏とスムーズなコミュニケーションをとるためにロシア語の勉強をしていると言います。
衣類は手洗い、敬語は禁止、なれ合いも不要というのがロシア合宿の環境と言います。
さらにロシア合宿中は美術館や大聖堂、夜景観賞などで表現力の幅を広げます。
インナ・ビストロヴァ氏がコーチに着いた当初はあまりに選手たちが基礎をおろそかにしていたということで、頭を抱えたと言います。それでもフェアリージャパンは成長し、表彰台に上るまでになったのです。
そんな彼女たち、一見華やかで美しいと思われる世界にいますが、実際には足はあざだらけと言います。あれだけの大技を成功させるためには、何度も失敗を繰り返します。ボールを受ける時に失敗し、足に当たるということも頻繁なのだそうです。
過去に活躍したフェアリーたち
フェアリージャパンのオーディションは毎年12月ころに行われます。全国から選りすぐりの女子たちが集まり、その中からさらに選ばれた数人がフェアリージャパンとして1年の大半を共に生活するのです。
2005年に初めてのオーディションが行われたと言われ、この時は9人が選ばれました。入れ替えも何度かありましたが、彼女たちは千葉市内にあるマンションで共同生活を送りました。
2009年に合宿拠点を味の素ナショナルトレーニングセンターに移し、現在は練習生オーディションも開催、練習生たちはフェアリージャパンと共に集中練習に月1回の合同合宿に参加しています。
現在も活躍する選手はいますが、過去には広島東洋カープの鈴木誠也選手の奥様である畠山愛理さんも参加。リオデジャネイロオリンピックに出場しました。
また現在美容コーチを務める田中琴乃氏もフェアリージャパンの一員でした。2007年、2009年~2011年まで世界新体操選手権代表として戦い、2008年は北京オリンピックに、2012年はロンドンオリンピックに出場、2013年に現役を引退しています。
他にもたくさんの選手がフェアリージャパンとして世界と戦い、現在は杉本早裕吏選手を主将として11名の選手が頑張っています。
オリンピック過去の成績
このように過酷な環境の中勝ち抜き、そして日本代表として世界で戦ってきたフェアリージャパンですが、オリンピックには2000年のシドニーオリンピックからの記録が残っています。
2000年と言えば高橋尚子さんが女子マラソンで金メダルを獲得したシドニーオリンピック。この大会でフェアリージャパンは団体総合5位に入りました。
2004年のアテネオリンピックは出場を逃し、雪辱を晴らして出場権を得た北京オリンピックでしたが団体では予選総合10位と不本意な結果に終わってしまいます。
2012年、今度こそはと臨んだロンドンオリンピックで団体総合7位、2016年のリオデジャネイロオリンピックでは団体総合8位でした。
『新体操でメダル獲得なんて遠い夢』なんていう人もいるくらい、ヨーロッパ勢の強さが目立つ新体操でしたが、以降、フェアリージャパンは力をつけていきます。
2017年に行われた新体操チャレンジカップの種目別決勝ではフープ1位、ロープ&ボール3位と2種目で表彰台に上がる史上初の快挙を成し遂げました。
さらにその後も表彰台に上る機会を増やしていき、同年9月の世界選手権団体総合3位と、団体総合でメダル獲得という42年ぶりの快挙を達成、種目別でも2個のメダルを獲得し、1つの大会で3個のメダルを獲得するという史上初の快挙を達成しました。
そして昨年9月、世界新体操選手権で団体総合2位、種目別決勝1位となったのです。
フェアリーを支えるスタッフ陣
フェアリージャパンを支えるのは監督やコーチだけではありません。実は様々な側面でフェアリージャパンは様々な指導を受けています。
現在体操指導に当たるのは、ロンドンオリンピック強化委員会新体操強化本部長の山崎浩子氏をはじめ、団体競技コーチを務めるインナ・ビストロヴァ氏、そして横地愛氏です。
もちろんスポーツですからメンタル面でのコーチも必要です。こちらは志村祥瑚氏が請け負っています。
そしてもう一つ重要になるのが美容コーチです。
新体操は華やかな競技です。メイクはもちろん、髪の毛も1本たりとも乱れることはありません。
その美容面を支えるのは元フェアリージャパンの田中琴乃氏をはじめとした6人のコーチ陣なんですよ。
男子新体操も面白い
リオデジャネイロオリンピック閉会式で演技を披露したことで注目を浴びたのが、青森大学男子新体操部です。
それ以前から男子新体操はたびたびテレビにも取り上げられていましたが、宙返りやタンブリングなど、体操の床協議の要素も含んだアクロバティックな演技は観客を魅了します。
しかしながら現在の男子新体操の競技人口はおよそ2000人。実は日本発祥の競技なのですが、今人口のほとんどを占めているのが高校生と大学生です。
しかし社会人になってから卒業生たちがチームを結成し、講演活動にいそしんだり、イベントに出演したりと、徐々に広まっています。
動画配信サイトでも見ることができ、数名の選手がシルク・ドゥ・ソレイユに参加するなど、思った以上に活動の幅は広いと言えます。
元々は1940年代に体力向上、健康改善のために始まった団体徒手体操が始まりで、2008年に休止されるまでは国体の種目にもなっていました。
日本発祥のため国際体操連盟からはまだ競技種目として認められていないものの、2003年には日本以外にもマレーシア、韓国、カナダが国際大会に出場、2005年はさらにアメリカやオーストラリア、新体操強豪国のロシアなどが出場し徐々に国際化していきました。
最低4名、基本6名で行う団体演技、1名で行う種具を用いた個人競技があり、国際化へ向けて動いているのです。