日本の国技・柔道、オリンピックのたびにそのメダルの行方が注目される競技の一つです。
今までに数多くの選手が多くの名シーンを刻んでくれた柔道ですが、出場できるのはそれぞれのクラスで各1名。強豪ひしめく日本国内でも、し烈な争いが行われています。
ここ数年で台頭してきたのは女子52kg級の阿部詩とも言えますが、その兄の阿部一二三にも注目が集まっています。一時期兄弟で金メダルも夢ではないと言われていましたが、阿部一二三最大のライバルともいえるのが、同じ日本国内にいる丸山城志郎です。
男子66kg級の代表はいったい誰がつかむのか、これまでの戦績から見てみましょう。
阿部一二三vs丸山城志郎
阿部一二三と丸山城志郎は昔からのライバルと言われてきました。
6歳で柔道を始めた阿部一二三は高校時代、17歳2か月という史上最年少記録で講道館杯を制し、2016年以降は全日本選抜体重別選手権、グランドスラム東京大会を2年連続で制覇、さらに2017年、2018年は世界選手権を制し、2019年は銅メダルを獲得しました。
そんな阿部一二三の躍進を抑えたのが丸山城志郎です。
阿部一二三に対して負け続きだった丸山城志郎でしたが、父親から精神面で阿部一二三に追いつけという意味を込めて3年半ほど連絡が絶たれます。しかし2019年の世界選手権直前に再会し、阿部一二三に2連勝したのです。
このまま丸山城志郎で東京オリンピック男子代表は確定かと思われました。
ところが11月のグランドスラム大阪、阿部一二三が決勝で丸山城志郎に勝利し、勝負は持ち越しに。よきライバルと言える2人が、柔道代表枠を最後まで争うことになるでしょう。
候補その1・阿部一二三
2018年に世界選手権を兄妹のアベック優勝した阿部一二三、野村忠宏をあこがれの選手としています。
柔道を始めたきっかけは5歳のとき、テレビを見ていてカッコよさに惹かれたからと言います。
小学校3年生の時に女子に投げられたことにショックを受けた阿部一二三は、消防士である父親とトレーニングを本格的に始め、3kgのメディシンボールを使った体幹トレーニングにより技に磨きをかけていきます。さらに高校に出稽古に赴くなど、パワーに頼らず基本を守る柔道を学び、強さの下地が出来上がっていきました。
小学校時代は全国大会にも顔を出すことができなかった阿部一二三でしたが、中学校2年生で全国中学校柔道大会55kg級で優勝すると3年生で60kg級を制し2階級制覇、アジアユースも制し、日本代表の次期エース候補と目されてきました。
高校に入ると小学校時代から出稽古に通っていた神港学園神港高校へ進学、66kg級に階級を上げ、力をつけ、全日本カデ優勝、全国高校選手権73kg級では古賀稔彦の息子である古賀颯人に逆転勝利を収めました。
2年生でも全日本カデを制し、インターハイはなんとすべてオール一本勝ち、圧倒的な力の差に、井上康生から高校生レベルを超えていると評価されました。
その後も講道館杯優勝など成績を収めると世界選手権3連覇中の海老沼匡に勝利、本人の自信へとつながりました。しかし2年生後半から成績が振るわず、リオデジャネイロオリンピック出場を逃してしまいます。丸山城志郎に敗れたのもこのころです。
大学進学後はケガに悩まされたこともありましたが、2年生で参加した世界選手権6試合中5試合を一本勝ちで優勝し、どんなに研究されても負けない強さを身につけたいとコメント、10年に1度の逸材とまで言われるようになりました。
今年のグランドスラム大阪で優勝した阿部一二三、絶対に勝たなければならない試合だったため、不安も恐怖もいつも以上だったと言います。しかしそれは結局自分を鼓舞することとなり、丸山城志郎の東京オリンピック代表内定に待ったをかける形となりました。
大学2年生くらいから食事に気を付けるようになったという阿部一二三、それまでは実家にいたため特に考えなくても栄養バランスを親が考えてくれていたといいます。だからこそ、寮に入ってそのありがたみがわかったようです。
特に減量しなければならないときは、そのありがたみがよくわかり、大学に入ってからはトレーナーに聞くなど、自分で考えるようになったと言います。
今まで外食が多く、栄養バランスを気にしていなかったという阿部一二三、野菜や乳製品を取るなどすることで、体の調子も上向いてきたと言います。
候補その2・丸山城志郎
一方の丸山城志郎は安部より4歳年上、バルセロナオリンピック柔道65kg級7位の丸山顕志を父に持ち、2011年世界ジュニア81kg級を制した丸山剛毅を兄に持っています。
5歳から柔道をはじめ、小学校5年生で全国少年柔道大会個人戦3位、団体戦3位を獲得、全国小学校学年別柔道大会40kg級2位、全日本選抜少年柔道大会団体戦優勝を飾っています。
堤防の上り下りダッシュに高層マンション階段3往復によって鍛え上げられたばねを持ち味とした内股を得意とし、中学校でも活躍、しかし高校時代はなかなか成績に恵まれませんでした。天理大学に入学し、入学当初は成績を上げたものの、2年生になると大学の暴力問題によって試合に出場できなくなってしまいます。それでも講道館杯で優勝してみせたのです。ケガに泣かされたものの2016年以降は世界を相手に戦う機会も増え、IJFワールド柔道ツアー初優勝を飾っています。
2017年以降は阿部一二三との対戦も増え、最初は敗れたものの2019年には阿部一二三を破った経験を持つマヌエル・ロンバルドに勝ち、さらに優勝を決めました。
4月に参加した体重別選手権では阿部一二三を破り世界選手権代表に、その後も阿部一二三を破り東京オリンピック代表に最も近くなったのです。
2019年9月時点でのIJF世界ランキングは1位、阿部か丸山か、本当に注目が集まるところです。
敵なし!?阿部詩
女子52kg級で最も注目されているのは阿部一二三の妹、阿部詩と言えるでしょう。3人兄妹の末っ子で、実は長兄の方が柔道センスはあったそうですが、長兄は中学校から水球に進んだそうです。
元々柔道を習っていた兄の見学をしていた阿部詩、楽しそうだからという理由で、ピアノなどを習わせたかった父親の反対を押し切り5歳から柔道を習い始めました。ちなみにこの時、ピアノ、水泳も習っていたそうですが、あまりの練習熱心さから道場関係者からも期待され、柔道一本に絞り込んでいきました。
4年生のときからより一層厳しい指導を受けるようになりましたが、車から出てこない、同情の壁にへばりつくなど練習を嫌がることもあったようです。しかし天才肌という評価が阿部詩を支え、5年生の時に全国小学生学年別柔道大会に出場、2回戦で敗れ、6年生のときにも初戦で敗退すると闘争心に火が付き、中学校からは真面目に練習に取り組むようになったと言います。
最初の頃は成績こそ振るいませんでしたが、全国中学校柔道大会で古賀稔彦の娘である古賀ひよりを破って優勝、全日本ジュニアでは3位となりましたが講道館杯に出場するまでになりました。
高校に入ってからも扮せ音をつづけ、グランドスラム東京に高校1年生で出場、史上最年少となる16歳141日で決勝に進出、兄・阿部一二三が優勝したことで兄妹でメダルを獲得しました。さらにグランプリ・デュッセルドルフで優勝すると史上最年少緒16歳225日でワールド柔道ツアーを制し、世界に名をとどろかせるようになります。
2年生からは体重別に出場し、活躍の幅をさらに広げていきます。グランドスラム東京では志々目愛に勝ち優勝、グランドスラム・パリに出場すると初戦と2回戦を10秒以内で勝利し、世界を驚かせました。この時、阿部詩はオール一本勝ちを果たしています。
3年生で世界選手権を制すると、オリンピックに最も近い選手として注目を集めます。結果、精神面で成長し、どうすれば自分がまけるのかという疑問を抱くほどに自信を持つようになりました。それでも兄・阿部一二三がいつも自分を鼓舞してくれていたこと、先頭を歩いていてくれていたこともあり、兄に追いついたという気持ちはないと言います。
2019年に大学に進学すると世界選手権でリオデジャネイロオリンピック金メダリストのマイリンダ・ケルメンディに勝利、決勝も開始30秒で勝利し優勝を果たしました。対外国人選手45連勝を果たした阿部詩は、マイリンダ・ケルメンディは一番戦いたかった選手で、勝ったことが自身になったと述べました。
しかしグランドスラム大阪で優勝を逃し、東京オリンピック代表内定は持ち越しとなりました。2019年12月時点での世界ランキングは3位、一時期1位となったこともあるだけに、2020年の東京オリンピックに期待がかかります。
東京オリンピックの柔道は?
東京オリンピック柔道日本代表の選考は3段階あります。
2019年の世界選手権、グランドスラム大阪両方で優勝すると強化委員会3分の2位以上の賛成を得たうえで内定、もしくは年明けのGS2大会までの結果を踏まえ、実績で内定、最終選考会は全日本選抜体重別選手権です。
柔道の醍醐味は一本を決める業の華麗さはもちろん、ポイントで負けている選手が最後の数秒で大逆転することもあるということです。最後まで手に汗握り、目が離せないのが柔道と言えるでしょう。
これまでに様々なドラマが生まれてきました。
ケガを押して決勝に臨み優勝した古賀稔彦に山下泰裕、誤審に泣いた篠原信一、オリンピック3連覇を果たした野村忠宏、5大会連続でオリンピックに出場した田村亮子、柔道経験わずか3年で金メダルを獲得した恵本裕子、野獣と呼ばれた松本薫など様々です。
そんな柔道は、2020年7月25日より女子48kg級および男子60kg級から始まり、31日に射は女子78kg級と男子100kg超級が行われます。さらに今大会から導入された混合団体戦も8月1日におこなわれます。体重の軽い階級から始まるということですね。このスタイルは度の大会でも変わりません。
様々な国が、威信とプライドをかけて畳の上でぶつかり合う柔道、今回はどんなドラマが生まれるのでしょうか。楽しみですね。