2020年東京オリンピックが徐々に近づいてきていますが、2019年2月21日には開会式と閉会式の場所となる新国立競技場のこけら落としが行われました。
キングカズやラグビー日本代表の登場など、駆けつけたおよそ6万人が大いに盛り上がったこけら落とし、気になるのは新国立競技場の特徴ですよね。聖火台がどのようになるかも分かっていませんが、新国立競技場についてだけでも見てみましょう。
全国から取り寄せられた木材
新国立競技場の外観を見たとき、木がたくさん使われているなと思った方も多いのではないでしょうか?
実は新国立協議上は間近から見るとの軒庇に全国各地の木が使われているんです。しかも新国立競技場の最北には北海道、南端には沖縄から取り寄せられた木が使われており、一種の日本地図を見ることができます。
木のぬくもりを感じられる杜のスタジアムとして、日本伝統の木造建築の要素を取り入れ、現代に合うようアレンジしたのが新国立競技場と言えるでしょう。
また雨風にさらされやすい上部は木目がプリントされた金属を使用しているので、腐る心配もありません。
最も大きな最上部には風の大庇と呼ばれる部分が置かれ、スタジアムの中に季節に応じた風を取り入れてくれます。
設計者・隈研吾
11月30日にようやっと完成した新国立競技場でしたが、その道のりは平たんなものではありませんでした。
というのも最初はザハ・ハディド氏の案が取り入れられたのですが、工費がかかりすぎるということで白紙撤回、再コンペをすることとなったのです。そしてやっと決まったのが大成建設・梓設計・隈研吾建築都市設計事務所JVの案だったということなんですね。
それでも工事は36か月で予定通りに終わり、整備費は1569億円、計画されたときの上限額1590億円以内となりました。
今回設計に携わった一人、隈研吾氏ですが、実は1回目のコンペには参加していませんでした。
ザハ氏の騒動でコメントを依頼されることも多かったと言いますが、本人にとっては複雑な問題、やすやすとコメントはできません。
また応募条件はプリツカー賞などの大きな賞を受賞したことがある人、大規模スタジアムを設計したことがある人ということで、隈氏は自分には関係のない話だと思っていたと言います。ところが大成建設より声をかけられ、驚きながらも建築家としてのプライドが、全力で取り組むという決意へと変えたと言います。
隈氏は幼少時に東京オリンピックを迎え、高度成長期位に伴い東京全体が変わっていった時代だと言います。代々木競技場はそれを象徴するもので、第一体育館のプールの水面に映る天窓からの光を見て、建築家を志したそうです。
そうして巡ってきた今回の話、モットーである建物の高さをなるべく低くする、地元の自然素材を使うという2つを取り入れ、綿密な構造計算を重ねて75メートルだった新国立競技場の高さを49メートルまで下げました。
さらに周辺環境にも気を配り、持続性と次世代への継続にも力を入れたと言います。
隈氏はもちろんこけら落としに参加しましたよ。
観客と一体になるスタジアム
フィールドに使われているのは天然芝です。しかし天然芝と言うと気温や気候に左右されやすいですよね。
そこで地中温度制御システムを整備し、天然芝が年間を通して最適な育成環境を得られるようにしました。
さらに陸上トラックに使われているのはイタリアのモンド社製で、反発力が高いと言われています。そのため桐生祥秀選手のような選手向きのトラックと言われており、好記録も期待されるスタジアムと言われています。
またすり鉢状になったスタンドは3層構造で、柱を使用していません。そのため視界は良好で観客とアスリートの一体感が生まれやすいと言われています。
最も懸念されていたのは暑さ対策ですが、1層、2層スタンド上部に気流創出ファンを185代設置することで、日差しや風が強い時にスタンドの温度を下げながら、フィールドの熱および湿気を上に輩出していく設備を整えました。
もちろん障がいを持つ方や小さなお子さんを連れていきたいという方にも優しい設計となっています。
車いす席を常時500席完備し、パラリンピックを行うときは250席ほどが追加されると言います。バランスも各階に考えて配置されていますので、同伴者と一緒に見ることができるという利点も生み出しているのです。
バリアフリーにももちろん配慮し、スタジアムへの侵入口の勾配は緩やか、誘導ブロックに手すりも完備されており、お手洗いも車いす対応だけではなく、オストメイト対応もし、その数は93にも及びます。
日本で最も懸念されているのが地震対策ですが、上層部の強度を斜め梁および鉄骨ブレースで上げ、下層部はオイルダンパーを集中配置することで揺れを吸収する造りとなっています。
さらにスタンド、通路も非常時にすぐ避難できるつくりとなっており、貯水槽に防災備蓄倉庫、非常用電源も完備されているのです。
また選手側から見たとき気になるのはロッカールームではないでしょうか。
その内部が公開されたのですが、ロッカールームは温かみのある木製となっており、さらに選手のブースごとにコンセントが設置されています。
よく見るスクエア型のロッカールームではなく、楕円形状となっていますから、チームのメンバー同士がより近く感じられるロッカールームかもしれませんね。
懸念点はないの?
これだけ充実した設備を整え、何度もワークショップを実施したうえで託児室の充実なども図った新国立競技場ですが、一般トイレに懸念の声を挙げる方もいるようです。
というのも一般トイレの個室にはふた、ウォッシュレット、擬音装置がありませ。ふたがないとスマートフォンなど大切なものを落としてしまったらどうしようと心配になる方も多いでしょう。またウォッシュレットは海外の方からも評価を得ています。擬音装置についてはもともと節水対策で取り入れられたもので、現在は公立の学校や駅などでも取り入れられていますが、ないと不安と言う方もいるのではないでしょうか。
さらにトイレットペーパーが向き代の状態で積まれているということですから、一気に現実世界に引き戻されてしまいそうです。内装が流すボタン、SOSボタン、手すり、ごみ箱とシンプルなので十分という方もいるでしょうが、着替え台がないと不安と言う方もいるかもしれませんね。さらに言えばトイレットペーパーの盗難を懸念する声もあります。
こけら落としにボルト登場!サプライズゲストは?
さて、こうして迎えた21日のこけら落とし、つまりオープニングイベントですが、総合司会は元プロテニスプレイヤーの松岡修造さんが請け負いました。松岡修造さんを交えた和太鼓演奏から始まったオープニングイベントは東北6県を象徴する各県の祭のパレードで盛り上がりました。松岡修造さんも大わらじの上に乗って参加となりました。
東北復興の意味も持つ東京オリンピックですから、東北6県が参加するということに意義があったことでしょう。
こけら落としの見どころはそれだけではありません。
プロサッカー選手現役最年長のキングカズこと三浦知良選手の登場に観客席がわき、リーチ・マイケル選手らラグビー日本代表のうちの3選手が現れました。
元々新国立競技場はラグビーワールドカップ日本開催に向けて計画されたものでしたし、7人制ラグビー代表入りを目指すメンバーもいますから、今回日本代表の3人が現れるというのも納得がいくものです。
三浦知良選手は事前に幸せな瞬間と答えており、一歩一歩踏み締めるようにピッチへ足を踏み入れました。そしてドリブルを披露し、観客席へ向かってキック、三浦知良選手も満足げに6万人の歓声に答え、ピッチを後にしました。
さらに旧国立競技場でライブ経験のあるDREAMS COME TRUEと嵐がライブを行いましたが、2組とも今回のオリンピックにも携わっています。
そして注目は健常者と障がい者の陸上選手によるリレーのエキシビションで、6人チームで走るというなんとも豪華な夢の競演が実施されました。
登場したのは世界記録保持者のウサイン・ボルト氏をはじめ、日本の桐生祥秀選手、ケンブリッジ飛鳥選手らです。
特にアンカーは桐生選手とボルト選手が一緒に走るという夢のようなシーンを目撃することとなりました。
そして最後に登場したサプライズゲストですが、その前に会場アナウンスにより、ペンライトのように観客席からピッチ上を照らしていたスマートフォンのライトを消すよう指示されました。
そして暗くなり、ピッチの中心部のみに証明が照らされ、現れたのはゆずの2人でした。
ゆずはアテネオリンピックのテーマソングとして「栄光の架橋」を作成、体操男子日本代表が金メダルを撮った瞬間、NHKアナウンサーの実況とともに話題となりました。五輪中継史上最高のアナウンスと表現する人もおり、今に伝わる名曲として知られています。
ゆずは「栄光の架橋」を6万人とともに熱唱し、オープニングイベントの最後を締めくくりました。
また旧国立競技場最後の音楽イベントで、「2014年の国立競技場から2020年の東京オリンピックへ向けて、現在から未来へつなぐ架け橋として歌い上げる」と宣言した曲が「栄光の架橋」です。
今回の国立競技場オープニングイベントでは松岡修造さんがインタビューアーを務めるなど、現地にいた方にとっても興奮冷め止まぬイベントとなりました。非常に寒い日となった12月21日、出演した方の中には白い息を吐きながら話していた方もいます。しかし会場の熱気が2020年の東京オリンピックへのカウントダウンを始めるように、これから情報がさらに入ってくるであろう聖火台のことなど、テレビ中継を見る側にとっても、後からニュースなどで見る側にとっても、期待に満ち溢れる結果となったのではないでしょうか。
新国立競技場について、中には批判的な声を出す人もいますが、オリンピックは“平和の祭典”です。国境、人種、性別などを超え、多くの人が一つになれるイベントを、楽しんでみてはいかがでしょうか。